→2018/国内編
今年私が出会って好きになった曲を国内/国外に分けて紹介します。記事中の3/9は2018年に発表された曲じゃなくなったけど、(まだ最終決定すらしてないが)国外になると更にこの比率高くなりそうだけど、記録として、そして何より書いてる私がめちゃ楽しいのでここに残しておこうと思いまーす。極私的な年間ベスト。
JUMP/ROTH BART BARON
好きなモノを説明するのに「この曲はCメロの歌詞が…」「あの映画は終盤のシーンが…」みたいに多くの言葉を使うようになった気がする。それは他人に自分がいかに私の好きなモノ、人、音楽が素晴らしいかって伝えたいって面もあったけど、そんな風に理屈立てないと好きなことを伝えられない自分に少し嫌気も差していたところだ。
この曲はなんかもう、説明出来ない。いや出来るかもしれないけど、その要素要素一つ一つを伝えても、私が言及しなかった要素も全て重なり合わさっていないとこの曲の魅力は伝わる気がしない。そんな曲。
「僕ら欲張りなんだ呆れるくらい/全てが欲しい/全てを見たい」
ともすれば絵空事だと、楽観的と軽蔑の目線を向けられかねないほど、ポジティブに輝くエネルギーを放つ曲。こういうのがアンセムなんだろうなと思う。
そして一聴すると純粋で潔白に見える世界観の中にも「怪物になって/君を飲み込んで/そうすればずっと一緒に居られるでしょ?」と剥き出しの欲望を紛れ込ませるセンス。「でもそれが本当の願いってものでしょ?」そう言われた気分。
シーグラス/ストレイテナー
4年前のアルバムからストレイテナーをきちんと追わなくなったな…とふと思い立ってSpotifyで近作2枚を一気に聴いて度肝を抜かれた。特に2年前発表のCOLD DISC。
曲ごとのキャラが立ってる(印象が被る曲が無い)。曲順がスムースかつ「ここにこの曲を置く意味」がちゃんとある。シングル等先行公開された曲を上回る程インパクトのあるアルバム曲がちゃんとある。そして冗長にならない程度の尺。
私が掲げる名盤基準を全てクリアしたCOLD DISC。文句なしの名作だと思います。秋に一番聴いたアルバムかもしれない。
シンセのメロディがモロ80'sテイストなダンスミュージックとバンド感の融合が本当に見事だったAlternative Dancerか、「こんがり焦げたトーストみたいな歌声」とスピッツのマサムネさんが評していたのも頷ける秦基博の豊かなボーカルに聴き惚れたコラボ曲の灯りと最後まで悩みましたが、ストレイテナーで好きな曲は?と聞かれて即答する曲の座からネクサスを引き摺り下ろしたこの曲で。新しいスタンダード。ストレイテナー、やはり迂闊に無視出来ないバンド。
人生は夢だらけ/椎名林檎
東京事変時代も含めて、私は椎名林檎の熱心なファンって訳ではなくて。
ただ、椎名林檎が関わった作品の中には、好き嫌いを超えた、胸に深く突き刺さったまま抜けない曲ってやつがごく稀にある。人生の、生きることもののあはれを見事に歌い上げた東京事変の「生きる」、そしてこの曲も。
「きっと違いの分かる人はいます/そう信じて丁寧に拵えて居ましょう」いち作家としての信念を静かに語る歌詞、過剰なまでに賑やかに雪崩れ込むオケ、漏れたため息の計算し尽くされた可愛らしさ、色々あるけど、とりあえずこの映像を、屈強な男衆を従えてマイクを高らかに掲げる椎名林檎を見てほしい。私は椅子の上で腰を抜かした。何て勇ましさ。超然。
「そう貴方のように居たいです富士山」
オーケストラを観にいこう/UNISON SQUARE GARDEN
2017年から2018年となった瞬間発売がアナウンスされたUNISON SQUARE GARDENの新作。もうこのバンドは結局期待を外さないってつくづく思い知らされました。傑作。
近年とどまる所を知らなかったテンポの加速化やギミックだらけの曲群に少しアレルギー反応を起こしてた私にとって、今作に収録された「何の奇も衒わない普通の超いい曲たち」は他のバンドのそれより輝きが増して見えた。その極め付けがこの曲。素直な曲展開。優雅でありながら少しの狂気すら感じるストリングスアレンジ。そしてそれを押しのけるような存在感を放つ、アウトロの空にも届きそうな伸び伸びとした声。それだけで十二分。
貼れる動画もストリーミングのリンクも無くてフル尺はすぐに聴かせられないのが残念なのでこれだけ、UNISON SQUARE GARDENが今年出したMODE MOOD MODEというアルバムは全ての音楽好きな人に聴いてほしい。出来ることなら今すぐTSUTAYAに走って欲しいし、私はこのバンドをもっと多くの音楽が好きな人たちに聴かれて欲しいのです。日本だのロキノンだのアニソンだの、そんな色眼鏡越しに見られるには勿体ないバンドです。
「UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2018 MODE MOOD MODE at Omiya Sonic City 2018.06.29」トレイラー
これの1分12秒〜でサビだけ聴けますよ。というかこのDVDになってるツアーもまた最高なので以下略。
「どんな名演奏よりも綺麗な自信はあるんだよ だけどさ 届け方は皆目見当がつかない!」田淵智也の作詞家としてのロマンチストっぷり、大好きですよ。
composition8 /mahol-hul
とあるフェスで初めて聴いて物販でCD買うまであっという間だった。そんなバンドに出会えたの久しぶり。
ベース・ツインギター・ツインドラムのインストバンド。編成だけ読むと何てややこしそうなバンドなんだって思うかもしれない。けど各々の楽器の棲み分けが完璧になされていたなら「難しさ」を「楽しさ」が上回る。
私は好きだけど、インストって食わず嫌いされがちなジャンルだと思うんです。歌がない。展開が聞きなれたA→B→サビじゃない。楽器の巧さって触ったことある人にしか分からないetc... そういった敷居を下げてくれる存在だと本気で思います。
それにしてもこのツインドラムのアレンジは本当に緻密に組み立てられていて何度聞き直しても感服する。きっとこのバンドを聴いて楽器を始めたくなる人って沢山いるんだろうなぁ。
叙情詩/L'Arc~en~Ciel
およそ二年間かけたラルクの作品集コンプリートが無事先日終わりました。もろに世代なのにREADY STEADY GOのサビくらいしか知らなかった私ですが、いやー濃ゆい濃ゆいこのバンド。「ラルクは日本で流行った洋楽を丸々飲み込んだ存在」という一文をネットのどこかで見かけた時は膝を叩きました。まさに。
耽美なニューウェーブに端を発してハードロックにJ-POPの爽快なメロディー、そしてエレクトロニカまで消化した上で一つのバンドとして曲を作る特異性、そしてとっ散らかった曲群を纏めて、ラルクたらしめるのはhydeの歌声なんだな、と。もうファンからしたら当たり前だろ!って言われそうですけどね。
花葬のサビ前で上げる嬌声(これって女性に使う言葉だけど、もうアレは嬌声と呼んで良いでしょう)もそうだし、Piecesの母性と父性が入り混じったようなある種中性的な歌詞が「似合う」のはhydeを置いて他ならないなと。その真骨頂がこの曲。SEVENTH HEAVENもそうだけど、hydeってちょっと低めの音域で滅茶苦茶いい声出ますよね。そういう人って意外とと思い浮かばない。
これを書いてる今(12/8深夜)ライブがどうなったか分からないけど、こんな冬にピッタリな曲を東京ドームで聴けたら嬉しいなぁ。ちなみにYouTube貼らないのはお察し下さい。
Pendulum/D.A.N.
今年はD.A.N.が私の中で「割と良いバンド」から「めちゃくちゃ好きな推しバンド」になった一年。
「D.A.N.」「TEMPEST」とクラブ寄りな曲を作り続けてきて、今作では音作りの方向性は変えずにメロディーや、特定のイメージを想起させる歌詞がより押し出されていた感じがして。しっかりと踊らせる曲が固まったアルバム前半からSEを挟んで始まる、深夜2時のクラブが似合いそうな後半の流れがとにかく好みでした。
元々浮遊感をうまく表せる声に歌詞のSF的世界観がドンズバでかけ合わさっていたこの曲が特にお気に入り。誰もいない宇宙に一人で放り出される感覚が味わえる。
今年はThe xxの前座と、念願の単独公演でライブを観れました。世間の潮流に同調しているようで微妙に馴染みきっていない、我が道を進む彼らが大好きです。
Reason of Black Color/雨のパレード
色々書こうと思っても言いたい事は一つだった。もう音楽もアートワークも演奏している様も、あなた達に纏わる全てが格好良すぎて降参です。
雨のパレード - Reason of Black Color ~YouTube Edition~
私はスピッツ主催の対バンで初めてこのバンドに出会ったのですが、とにかくこの四人格好いいなあ…と終始見入ってしまった。
あんまり他のバンド出すのも良くないかもしれないけど。今注目を浴びるバンドって音楽的には優れていてもメンバーに「華」を感じ取れない時が大多数で。「華」ってすごく抽象的だし自分でも説明しにくい概念だけど、何もせずとも格好いいな、この人って音楽してなかったら何してるんだろう、って思わせる、少し現実から浮いてる感じ。
それを持ってる人たちに久しく出会っていなかった気がする。ジャンルも雰囲気も全く違うけど、ステージに上がって楽器を構えるだけでもう格好良い!ってなれるあの感じはTHE NOVEMBERSに近い。
今のアーティストってバンド・ソロと形態は問わずこういう音楽と、物販販売やSNS運用等の音楽にまつわる活動をこんな風にやりたい人いっぱい居るだろうけど、ここまでスタイリッシュに、しかも各々が確固たるスキルを持ったバンド編成でやられたらちょっと太刀打ち出来ないよなぁ。羨ましさすら感じてしまうよ。
Movie Palace/世武裕子
年々、元々好きな人たちが作る音楽以外で一聴して雷が落ちるような衝撃を味わうことが減ってきた。それだけ私のボキャブラリーが音楽を聴き始めた時と比べて増えたことの証なのかもしれないけど、寂しくもある。前述したロットの曲と、これが今年の私にその衝撃を与えてくれた。
好きな理由は私的オールタイムベストバンドの一つであるPortisheadをどこか思わせる曲だから、ってだけではあるけれど。朝ドラのテーマを手がけて、ミスチルのサポートする方がソロでこんな路線の曲を作られているなんて素晴らしい振れ幅の大きさじゃないですか。この方のソロは掘り甲斐がありそう。
国内編はこれで終わり。いやー格好いい音楽で溢れかえっちゃってて困りますね日本。しかも海の向こうには日本より遥かに多くの人が音楽作っちゃってるもんだからもう大変。新しい音楽と出会うのはいつだって最高に楽しい。
来年はノベンバとバインが既にフルアルバムリリースを予告してるし、スピッツも3年スパンで新作を出すのがほぼ確定してる年だし、ユニゾンは15周年で何かを派手にやってくれそうな予感を匂わせているし、そしてdownyが1月のライブで再び活動する事もアナウンスされた。好きな日本のバンドが軒並み活動してくれそうで嬉しい。
新木場サンセット
八月が終わる前日、スピッツ夏の恒例イベント新木場サンセットへ。簡単なバンドごとの感想を。
雨のパレード
私の考える格好いいバンドの条件に「メンバーの立ち姿が格好良くて、各々のプレイに個性がある」というのがあると思っているのですが、この日時初めて観た雨のパレードは正にこの条件を満たしている四人組だった。
打ち込みのように正確でブレがなく、同時にモタらせる所はきっちりとモタらせてグルーヴを感じさせるドラムと、踊るのに気持ちいい余白を残したミニマムなベース。細かく手数の多いドラムと最小限で最大の効果を生むベースっていうコントラスト。
そしてモデルかと見間違える程スタイルの良さでダンスの見栄えが良くエモーショナルな歌唱のボーカル。格好良いフロントマン。
バンド編成としては珍しくステージ最奥に陣取るギタリストは結構な割合でハモってて、後半のギターロック然とした曲では前半主役になれなかった鬱憤を晴らすかのようにド派手なギターソロを叩き込んでいた。
前半の三曲はマサムネさんが「バンドの枠を超えた音楽で…」と表現していてた打ち込みのビートやシンセを大々的に導入したR&B、後半はギターが活躍する正統派なロックミュージックというセットリストでした。近年はD.A.N.の台頭を筆頭に、R&Bやクラブミュージックを人力で演奏するバンドが増えている印象がありますが、雨のパレードはその中庸を行くバンドだなと感じました。そのバランス感覚でこれから様々な人々を虜にしていくのでしょう。いいバンドに出会えた。
どの曲も好みだったけど一番はこれかな。哀愁と温もりを同時に感じさせる声って中々無いですよね。
ジョンB&ザ・ドーナッツ!
二人のギタリストにコーラス&シンバルの真城めぐみさん、そしてジョンBという布陣。
バラの花束を抱えたジョンBが「ジュテーム…ジュテーム…」って囁きながら登場したのに笑いましたが、まさに60年代のフレンチポップスといった趣のある音楽でした。歌詞は等身大な一人の男の独白なのだけれど。
等身大の生活の中の要素一つ一つに真顔でユルくツッコミを入れていくような「所在ない」って曲が印象的。平日の夜、仕事も家事も終えて寝る前にお酒を飲みながら聴いていたい曲。日常の些細な出来事を視点一つで面白がることが出来る、そう教えてくれる曲。
yonige
「チャットモンチー後のガールズバンド」と噂のyonige。格好良かった。私はもう青春を終えてしまった側の人間ですが、それこそ今の中高生が彼女らを観て「私もバンドやろう!」って思わせるような「ロックバンドの格好良さ」がギュッと詰まった30分間。
歪んだギター、直線的なベース、フルスイングで叩くドラム、それだけでロックバンドは十二分、それを体現したステージだった。私はこういうバンド然としたバンドが常にいて欲しい古いタイプの人間なので嬉しい。
MCで私達のライブ観るの初めての人ー?って聴いた時に上がった手が予想以上に多かったみたいで、それを見たベースの人が「マジ!?うっはー燃えるぅー!」って叫んでいてその不敵な態度が頼もしかった。
代表曲はこれなのかな。後にマサムネさんが「歌詞が(ドロドロしていて)ヤバい」と言及していました。
yonige -アボカド-【Official Video】
ミツメ
yonigeからミツメというこの緊張感の落差よ。まったりと楽しませてもらいながら、この日は緊張感と脱力感を交互に感じさせる出演順なんだと頭の片隅で考えたり。
スピッツのプールのカバーが素晴らしかった。高音がキツいのか少しかすれ気味になるボーカルがいい味を出していました。中盤の「ア~~アア~~」はリバーブを深くかけたギターに取って代わられていた。
雨のパレードのボーカルの方は「スピッツのカバーを演奏するより、自分たちの曲だけで…」と言っていたけど、こういう自らのルーツを生々しく曝け出すようにカバーを演奏するのもいいですね。私が抱くミツメのイメージは「『名前をつけてやる』をずっとやっているスピッツ」だったので、プールという選曲も◎
昨年出した新曲のエスパーがラスト。それまでのユルいサイケデリアを吹っ飛ばすような激しいギターソロを叩きつけて終了。以前から音源ではチェックしていたミツメ、ようやく生で体感できて良かった。
スピッツ
全体的に超!夏!!なセットリスト。スピッツは本当に四季折々の風景と気温に合う曲ばかりですね。
スピッツのライブは今までホール・アリーナでしか観たことが無くて。今回が初めてのライブハウスでのライブ参加だったのですが、音の届き方にこんなに差があるとは思わなかった。
スピッツのライブの魅力の一つはベースの田村さんがアドリブプレイを入れまくる所なのはファンの皆様はご存知だと思いますが、リズム隊の音が力強く体を揺さぶるこの日は田村さんのベースが如実に曲をアップデートさせているのがよく分かりました。
ベースが歌っていたシロクマ、歌をリードするように指板上を縦横無尽に指が動くハニーハニー、プル一発でフリーな空気感のAメロを引き締めていた8823。本当に弾きだすフレーズが百発百中のアレンジ力。ベースライン単品のライブ音源で商品に出来るレベル。売ってください。
今回のレア曲枠は漣と甘ったれクリーチャー。特に漣が本当に嬉しかった…。
私の中で順位の変動が激しいスピッツのアルバムの中でもさざなみCDは五本の指に必ず入るほど好きなのもありますが、漣の歌詞は「亡くなった人に会いに行く曲」だと解釈していて。そして夏を連想する透き通ったギターの音色。そういった様々な要素がかけ合わさって「お盆の曲」というイメージになっていました。だから八月にこの曲を聴けたのは本当に嬉しかった…。平成最後の夏、最高の思い出。
「翼は無いけど / 海山超えて / 君に会うのよ」。「会いに行こう」でも、「会うんだ」でもない、女性語の語尾。それが草野マサムネというシンガーにはピッタリだって思わせる魔法。
私をノイズピットに連れてって
8月15日、My Bloody Valentineの単独ライブを観に豊洲PITへ。一番の目的はその週末にあったSONICMANIAでThundercatとの被りで悩まないため。
普段シューゲイザーやそれに影響された音楽を好んで聴いている割には、私の中でマイブラってそこまで大きな存在ってわけでもなくて。
まだいわゆるオルタナティブロックにも親しみが無かった頃にLovelessを初めて聴いた時は、一曲目Only Shallowの寄せては返す荒波のようなギターサウンドとその音色に不釣合いなほどポップで流麗な歌メロ、というそれまでに触れたことのないフォーマットが衝撃的だったものの、「音は凄いし純粋にいい曲もあるけどアルバムとしては長すぎて冗長」という第一印象が今日に至るまで拭いきれず、様々な人が言うような「人生を変えた名盤」という位置付けにはならなかったのです。
My Bloody Valentine - Only Shallow (Official Music Video)
個人的には同じオリジナル世代のシューゲイザーでも、よりメロディーが耽美的で深くモジュレーション系のエフェクターがかかったギターが心地いい眠気を誘ってくれるSlowdiveの方が好きだったりします。再結成後に出したアルバムも「まさにSlowdive!」ってガッツポーズしたくなる良作でしたしね。
とはいえソニマニでのタイムテーブル被り問題もあるし、聴きたい曲はたくさんあるし、何より伝説と呼ばれるバンドは生で観れるうちに観ておきたい、という気持ちが強くて今回の単独ライブ参加と相成りました。
「本公演は非常に音が大きいので必ず耳栓を使用してください」
マイブラ以外にも様々なバンドのTシャツに身を包んだ人々の行列を抜けてライブハウスに入る間、スタッフが何度も注意を促していた。その後開演前のアナウンスでも何度もその文言は繰り返されて、ああ今日は本当にマイブラが演奏する日なんだ、って実感が湧いてくる。
通常のライブではお目にかかれない光景。過去の来日公演でも耳栓の配布があったのは知っていたけれど、実際に目の当たりにすると気持ちが高ぶってくる。
ステージを見ると歴戦のメタルバンドも裸足で逃げ出すほど山と積まれたアンプ群、バックスクリーンには星が煌めく夜空の映像、その全てがLovelesカラーの赤紫色に染め上がっていた。
開演時間を少し超えてからメンバーがフラリとステージに上がってくる。女性陣が90年代の写真で見た姿からまるで変わらないのに対して男性陣の老けっぷりよ。メンバーを呼ぶ大歓声、熱量が凄い。ジャズマスターを手にしたケヴィンが一言「Ready?」と挨拶して私の人生初のマイブラ体験は始まった。
ある対談の中でTHE NOVEMBERSの小林さんがマイブラのギターの音をこんな風に表現されていたことがあって。
「シューゲイザーと呼ばれているバンドは、いわゆる空間系のエフェクターを使うじゃないですか。それって、言ってみれば、本来ない空間を再現するためのものだと思うんです。それに対して、マイブラはフル・レンジで鳴らしている――最初から空気のある、空間の存在しているところを鳴らしているので、僕らが通常頼っているようなエフェクターの使い方をしていないんじゃないかと感じたんです。僕はやっぱり、(あの轟音が)ギターのものとして聴こえたんですよ。いろんな倍音がキラキラしていたり、ぐーっとくぐもっていたり、ギターらしい中域のあたりが聴こえたり、いろんなものがフル・レンジで鳴っていて、全体として塩梅よくなっている。だから耳に痛くないし。」
文章で読むと??となった覚えがあるのですが、実際に体感してみると言わんとしている事が分かりました。
うまく表現出来ないのですが、客席上空の空間全体がビリビリと振動している感じ、というか。
ステージ脇に設置されたスピーカーから音が放たれているというより、ライブハウス中の空気という空気が触媒となって私たちを震わせている、というか。
「震え」って言葉を使わずにはいられなかったのですが、本当にそうだったと思います。大きすぎる音がライブハウス内でぐわんぐわんと反響して、空間の全てを震えさせて、埋め尽くしている。ライブハウスで観れば差はあれど大体そんな感じになるだろう、って声もありそうですが、空間に対して音が占める密度が100%に限りなく近いというか。
当然ながらそんな空間に長くいれば私たちの感覚も半ば強引に適応していくわけで。時間の感覚がおかしくなってきたのを明確に自覚し始めたのはNew Youだったか、アウトロで何度も何度もビリンダとデビーのハミングが繰り返されて終わりが見えなくなった時。結局ドラムが唐突にシメていたけど、曲が終わって拍手が起こるまで一拍空いていたから他の人も私と同じように少し眠くなってたのかなと思う。
そんなことが他の曲でも何度かあった上に、バックスクリーンに流された目に痛いほど鮮やかな原色の映像との相乗効果でけっこう早い段階で頭の芯が痺れた感覚がしました。観客をトランスさせるという点で、あのVJは音と同じくらいかなり重要な役割を果たしていたと思います。
ちなみにあれだけ危機感を煽る注意をされたので一応耳栓も使ってみましたが、ホワイトノイズがより鮮明に聴こえるようになっただけで苦笑いしました。ドラムのビートとサーッというホワイトノイズとかすかな歌声しか聴こえなくなるのはちょっと面白い体験でした。
セットリストは全アルバムから満遍なく取り上げられていた。頭のギターフレーズだけで叫んでしまったWhen You SleepにThorn、この轟音と静寂のコントラストは後のポストロックバンドがかなり参考にしたんだろうなって今更ながらに思ったCigarette In Your Bed、土煙が立つ映像とビルを発破したような音像がピッタリ当てはまるNothing Much to Loose、スタタタって始まりだけで歓声が上がって音源以上の荒々しさを見せつけてくれたOnly Shallow。
個人的に白眉だったのが打ち込みのリズムに合わせてメンバー全員がギターを弾いたWonder 2。Aphex Twinsを連想するトランス感でした。
You Made Me Realiseの間奏をノイズピットと表現したのが誰かは知らないけど、実際に体験してみると【pit=動物などを入れておく『囲い』】という単語を命名者が使った理由が分かった気がしました。逃げ場のないノイズの暴力。音で全身を押さえつけられていると錯覚するほどの圧力。
あまりに音が歪みすぎたせいか、オクターバーで限界まで音を下げたせいか、ケヴィンがギターを押さえる手を少しハイポジションに移動させた(=普通なら音が高くなる)にも関わらず聴こえる音に全く変化がなくて笑いました。ドレミとか音程とか、もうこの人には関係ないんだろうな。
弦楽器の三人が相手の挙動を全く気にすることなく俯いたまま無心に楽器をかき鳴らしてノイズを放つ姿に美学を感じた。まさにShoegazerそのもの。
13分間ほど続いた120 dbのノイズ(ジェット機のエンジン程らしいです)はチラリとアイコンタクトを取っただけであっさりとメインリフに戻った。勝手にやってるように見えてコンビネーション良いところは良いなあと感心してたけど、「You Made Me Realise」と囁いてから再びリフを弾く前、ケヴィンがタイミングを読み違えて鳴らしちゃいけない音を毎回鳴らしていたのにずっこけた。緊張感あるのかないのか最後まで分からない。面白い。
あとノイズピットを経てから、それまで微かに聴こえる位だったボーカルが急にハッキリと聴こえるようになりました。音量の極点に触れれば逆に聴覚は鋭敏化するのかな、と思った。ラストは再びオクターバーで音を下げた極悪な低音リフを鳴らして終了。
すごい体験でした。何がすごいって、こんなに暴力的で一歩間違えれば不快になり得る音とトリップ感をすぐにでもまた体験したい、って思わせることが。
「一日遅れて耳鳴りがきた」「途中トイレ行ったら気持ち悪そうにうずくまってる人いた」みたいな感想をライブ後にいくつか見かけましたが、私はPA卓近くと音響的には一番整っているであろう場所で観ていたおかげか大したダメージを受けた感覚は無く。むしろライブ中は空気の揺れが心地よかったくらい。ただ無闇に音量を上げるのではなく、きちんとデザインしてあるからこそ条件さえ整えばあの爆音は心地よいモノに変貌を遂げるんだろうな、と。
余談。その週末にあったSONICMANIAで私は会場に行くまでマイブラとThudercatどちらに行くか脳内で決着がつかず、結局ThudercatとFlying Lotusまで蹴ってたった二日ぶりのマイブラを観ましたとさ。私をノイズピットに連れてって。
先にも引用しましたが、今回の記事はこちらの対談記事も参考にして書かせて頂きました。この対談、ライブにおける特異な音作りをメカニック面から考察してたり、「マイブラと他のシューゲイザーとの違い」を説明されていたりと非常に読み応えがあるので未読の方は是非。
Tour "MODE MOOD MODE"への感想 または私は何故UNISON SQUARE GARDENのライブにまた足を運ぶのか
UNISON SQUARE GARDEN、2018年のツアー”MODE MOOD MODE”を観てきました。普段ならその感想を、という流れですが、今回はちょっと趣旨を変えて
『なぜこのバンドのワンマンライブはこんなにも素晴らしいのか』
について私なりに考察した文章を中心に書こうと思います。今回のライブのセトリ・感想はその後に。
UNISON SQUARE GARDENのライブはいつも楽しい。
単純にこのバンドが生み出す音楽が好き、メンバーがライブ中楽しそうにはしゃいで演奏しているのが好き、というのもありますが、言ってしまえば私が好きな、音楽性も全く違う他のバンドにもそれは当てはまるわけで。
じゃあどうしてこのバンドのライブは特別に心ときめくのだろう、と理由は分からずとも独特なワクワク感に魅せられてライブに足を運ぶ回数だけが増えていき、前回のツアー”One roll, One romance”でおぼろげながらに他のバンドが持っていない素晴らしさが分かってきて、今回のツアーに参加して遂にその素晴らしさをハッキリと言語化出来たので書いていこうと思います。
以下の文章は、今回のツアーにも一部言及して書いているので、未参加の方は一旦閉じていただければ。このバンドのワンマンライブを存分に堪能するにはネタバレを一切知らずに参加するのが一番だと思うので。
- ライブ定番曲のマンネリ化防止
ある程度歴史のあるバンドのライブって、ラスト付近に配置される定番の曲ってやつがあるじゃないですか。
例えばOasisはDon’t Look Back In Angerを毎回エンディング付近でやっていたし、スピッツなら8823という曲をセットリストの盛り上がり所にいつも配置している。もちろんそれは長年愛される曲を作れたアーティストのみに許された特権だし、むしろ初めて観に来た人の事も考えて律儀に定番を崩さないその姿勢は立派とも思っています。
ただ、ある程度慣れてくると「ああいつもの感じだと次あたりであの曲やるんだろうな」「この曲やったって事はもうそろそろ本編終わるかな」とか頭の片隅で余計な事を考えながらライブを観てしまう悪い癖が出来てしまって。正直、そういう時は目の前のライブを120%楽しめているとは言い難いんです。
そこでこのバンドの凄い所は、これだけアルバムを出す毎にキラーチューンを量産しつつも、その「定番の流れ」を作るのを拒否するようにライブのメニューを組んでいるんだな、というのがDr. Izzyツアー前後から見え隠れしていること。
今回のツアーでも、近年のライブで序盤からクライマックスまで様々な場面で活躍していた天国と地獄や夜な夜なドライブ、バンドの思い入れが強いシャンデリア・ワルツ、そして代名詞の一つと言っても過言じゃないタイバニ曲は完全に外されている。
逆に最近外され気味だった場違いハミングバードがレギュラー復活していたと、こんな風に定番曲の中でもローテーションを作って、「いつもの流れ」をなるべく廃しているのが何よりも常連さんをワクワクさせて、一回ファンにさせたら離れさせない秘訣なんだろうなあと。後半の盛り上がりパートでもどの曲が飛び出してくるか分からないのが過去の経験から分かっていたから、今回のツアーも最後まで邪念無くステージと向き合う事が出来ました。
- 過去曲のセレクトと、曲同士が作用し合う有機的なセットリスト
ちょっと昔のアルバムの曲の取り上げ方。古参ファンが喜ぶ曲を選ぶだけでなく、最近のワンマンでは必然性みたいなモノが感じられる選曲をしているなあと。
「なかなかやらない初期の曲が聴けた!嬉しい!」っていうファン心をくすぐるのに止まらない、「この曲の後ならこの曲しかない」っていう選曲。脚光を浴びる事があまり多くなかったアルバム曲が、前後に配置された曲と作用しあって、アルバムで聴いた時とはまた違う表情を見せたり、より強い輝きを放ったりするセットリスト。
個人的に前回のツアーの「メカトル時空探検隊〜パンデミックサドンデス〜僕らのその先」という流れが本当に美しくて。ここの三曲は全部この曲じゃなきゃいけない、ユニゾンの他のレパートリーが入る隙間が無いわ、と。実はそんな風にセトリを組んでいるバンドってそうそういないんじゃないかな…とまで思っています。
あと単純に毎ツアーで必ず1、2曲はしばらくやっていない曲をチョイスするのが良いですよね。2ndがちょっと放置され気味な感じはしますが、それ以外のアルバムはそれなりにアルバム曲もライブで演奏されている印象。特に1stの曲は近年の曲には無い荒削りな感じがアクセントとして重宝されているって勝手に予想しています。ほぼ毎ツアー1st収録曲のどれかはレギュラー入りしていますしね。
- CDにはない演奏の積極的な導入、曲間の繋ぎ
ユニゾンのライブの大きな特徴の一つは、「曲の繋ぎでセッション風の演奏をする」と「丸々一曲分くらいの時間を使うドラムソロ〜セッション」だと思っていて。単純にセットリストを見ただけでは分からない、生ならではのお楽しみ。後にも書きますが、CDでは耳にしていなかった演奏が曲の終わりを引き継ぐ形で始まるととてもワクワクするのです。
桜のあとは前の曲から全く間を置かずに
- 最小限に止められた音楽以外の要素
頑なに大きな会場や派手な演出を好まない約一名がいるのを反映して、普通のバンドがやるバックスクリーンの映像や大掛かりなステージセットといった要素を極力廃しているこのバンド。今回は途中グッズTシャツの卍模様が三つ降りてきたり、本編ラストでツアータイトルがドーンと描かれた幕が現れたりはしましたが、まあそれくらい。その分視線が自然と演奏しているメンバーのみに注げて、最大の要素である「演奏」のみにこちらも集中出来るんだろうなあと。これはあくまで副次的な要素かもしれないですけどね。
そして今回は遂に本編MC無しという思い切った構成が、ジェットコースターのようなセットリストを更に加速させていました。
では語り尽くして満足したので今回のツアーの方の感想をば。以下セトリも載せちゃうのでご注意を。
- Own Civilization (nano-mile met)
- フルカラープログラム
- シュガーソングとビターステップ
- fake town baby
- mix juiceのいうとおり
- デイライ協奏楽団
- フィクションフリーククライシス
- ガリレオのショーケース
- MIDNIGHT JUNGLE
- サンタクロースは渋滞中
- 静謐甘美秋暮抒情
- クローバー
- オーケストラを観にいこう
- Dizzy Trickster
- 桜のあと(all quarter leat to the?)
- ドラムソロ〜パーカッションソロ〜セッション
- Invisible Sensation
- 場違いハミングバード
- 君の瞳に恋してない
アンコール
- 春が来てぼくら
- 10% roll, 10% romance
- Cheap Cheap Endroll
改めてセットリストを眺めると、今回のセットリスト、過去の曲はインディーズ時代・1 stの曲が多めなんですね。去年立て続けに出したタイアップ曲で新しくファンになった人向けの配慮、という名の「俺たち昔の曲も良いんだぜ」ってアピールなのかなって思ったり。(もちろん良い意味でね)
前述したように、今回はセッション入りの曲が多かった。ちょっと水を飲んで一息休憩を入れた後の曲、具体的に言うと10、14曲は聴きなれない演奏が始まってどの曲くるんだろう?って。
他には7曲目もスラップベースとドラムのセッションから始まりましたが、やっぱり休憩中独特の空白時間から耳慣れない演奏が始まるとワクワク感が違いますねえ。楽しかった。
ガリレオのショーケースに意表を突かれた。特にクライマックスでもない所で、しかも次にMIDNIGHT JUNGLEを演奏するという、新旧キラーチューンが肩を並べる挑戦的な配置。もはやキラーチューンすらセットリストの流れを作るのに使ってしまう攻めの姿勢には脱帽。
今回のアルバム曲で個人的ベストの「オーケストラを観にいこう」ですが、バンド演奏が始まる前にオーケストラのイントロが付くアレンジが入っていました。アルバムの流れを考えて消したパートなのかな。だとしたら次回シングルのカップリングとかに是非とも完全版を…!
そしてこれは観に行った人にしか通じない話で申し訳ないのですが、ラスト一音をバンッ!って合わせた時、カラフルに煌めいていた照明が全て消えて真っ暗になった演出で息を呑みました。
「凄すぎて拍手出来ないし歓声も上げられない、ステージから放たれる雰囲気を壊したくない」あの感覚をユニゾンで初めて味わった。
セットリストに見慣れない「パーカッションソロ」あるのでその事を。
ドラムソロが始まって一通り叩き切ったあと、鈴木さんが上着を脱いでターバンの要領で頭に巻きつけて目隠ししちゃった状態でのドラムソロが再開。すると袖から楽器も下げずにフロントの二人がゆっくりと歩み出て来ておや?と眺めていると、アンプの影からそれぞれパーカッションを取り出して、目隠しして立ち上がっている鈴木さんの手元あたりに掲げるという今までにない展開に…!
ちなみにこの時の二人、ドラム台に片足をのっけて両手でパーカッションを頭上に掲げる体勢を取っていたのですが、ターバンマン状態の鈴木さんの風貌も相まって、怪しい宗教の教祖に供物を捧げる人々に見えて大分面白かったです。笑
パーカッションは斎藤さんがボンゴ、田淵さんがビブラスラップ。ポンポンポポンポンポポンポンポン、カーーーン!!!みたいな。笑
最近は定番になりつつあったドラムソロ〜セッション。今回の試みは視覚的に楽しいというのもあるけど、変化球も入れてきてよりエンターテイメント要素が増してきた。面白い。
そういえばアンコール最後の曲でもシャツを被って目隠しして叩いてました鈴木さん。シーツを被ったお化けみたいな生き物がスティック回ししながらドラムを叩くその絵はかなりキモ…面白かったです。ピエロ感が増した鈴木さん。
あと今回観てて思ったのは斎藤さん本当に歌上手いなあと。前から上手かったけど今回は更に安定感が増していたし、むしろ喉の調子良すぎて原曲より高い声出てない?って思った場面があったくらい。
プロフェッショナルの斎藤さん、曲芸師の鈴木さん、司令塔の田淵さん。少しイビツな三角形。良いバンドだなあ。
ただ一つだけ残念だったのが、MODE MOOD MODE収録曲の「夢が覚めたら」をやらなかったことですね…。良い意味でユニゾンらしからぬ、ストレートな言葉と綺麗なメロディだけで出来ている「良い曲」
ライブで聴いたら壮大で格好いいんだろうなあ、アンコール最後とかでやって新しいユニゾンを見せてくれないかなあ、と紺色の照明をバックに演奏する三人の姿まで妄想を膨らませていたのでこれだけは本当に残念…。お人好しカメレオン状態になったら本当に泣くぞ。
ただ改めて今回のセットリストを眺めると、夢が覚めたらが入る隙が見当たらなくって。敢えて言うなら春が来てぼくらの位置だろうけど、この曲も今回は外せないだろうし。この文句も出る事前提にセットリストを組んだかのよう。そこまで含めて今回のツアーにはおみまいされました。
私は今後MODE MOOD MODEツアーに参加する予定は今の所ありません。最初で最後の一回。というかこのバンドのワンマンは初めましての一回目も衝撃がキモだと思っているので、個人的には複数回参加する意義をあまり感じていないんですよね。
この文章を書いた6月から半年くらいツアーが続いて、年末にはまた新しいツアーかなにかが発表されるんでしょう。こんな風に年に一回、私の期待を軽々と超えてくれるライブを観るサイクルがいつまで続いてくれるのでしょうか。楽しみですね。
TODAY/THE NOVEMBERS
TODAY/THE NOVEMBERS
THE NOVEMBERS6枚目のEP、TODAY。書いててビックリしたんですけどミニアルバムももう6枚目になるんですね。
このバンドはインタビューやブログで頻出するワードが時期ごとにそれぞれある(と勝手に思っている)のですが、今回のキーワードは「静けさ」「自然」。
Rhapsody In Beauty期から本格的にノーベンバーズの代名詞となった美しく歪んだ爆音。ライブでもほぼ毎回トドメに爆音をお見舞いするXenoや黒い虹といった楽曲をクライマックスに用意していた事からも、本人達がこの爆音を必殺技としているのが伺えていた。
▲THE NOVEMBERS 「Xeno」 from 1st DVD "TOUR Romancé" LIVE AT STUDIO COAST▲
そして前作のHallelujahは、ノーベンバーズが本来併せ持っていた、幻想的な美しさと暴力的な演奏という相反する二つの要素がついに同居した傑作だった。結成からの11年間でバンドが培ってきた音楽的な要素が惜しげも無く注ぎ込まれた、まさに「これまで」を総括する作品。そのあとに初のベスト盤が出たのは個人的にとても自然な流れだと思っていました。
メンバーも最高傑作と公言して憚らない作品が出来ただけに、「これから」にあたる今回の作品はどんな方向性になるかなと色々妄想を巡らせていましたが、蓋を開けてみると前述した武器である爆音を一旦封じ込めた、潔癖なほどに静かな音が鳴っていた。
小林さんが「モチベーション0の状況で自然に出来る物を大事にしている」と呟いていましたが、まさに今作がそれなんでしょう。余計な装飾を最低限に抑えた、剥き出しのTHE NOVEMBERS。
モチベーション0の状況で自然と作れるものを大事にしてる
— Yusuke Kobayashi (@Pale_im_Pelz) 2018年4月25日
「みんな急いでいる」冒頭の雨音に導かれて静寂の世界に迷い込んで、
「O Alquimista」で不毛な荒野を、「Cradle」では一人ぼっちで宇宙を放浪した気分になって、
「TODAY」の最後、小鳥のさえずりを背に賑やかな現実世界へとゆっくりと戻っていく、ちょっとした非日常を味合わせてくれるミニアルバム。
色んな状況で聴いても楽しめるというこの作品。私は帰り道のバスの中で聞いて、少しの間空想に浸るのがお気に入りの聴き方。
バンド史上最も静謐な作品を携えた今回のツアー、どんな風になるのでしょうか。
ライブ本編とは関係無さそうに見えますが、ツアー会場で販売されるライブ盤が、EPの内容と相反するように爆音と絶唱を叩きつける曲ばかりが並んでいるのも面白い。
そしてこの暴力的なラインナップに、今回のEPに入っていてもおかしくない佳曲meltがひっそりと紛れ込んでいるのがとても気になるところですね。
以下一曲ごとの短い感想です。
みんな急いでいる
「覚えていられないくらい」って歌詞が好き。ただ「覚えていない」だったらこんなに好きにはならなかったと思う。英語で言うとdon’tじゃなくてcan’tになっているのが好き。
覚えていないんじゃなくて、そこに留まることをみんなが許さない様をキチンと描いてくれているようで。急ぎたくて急いでいる人ばかりじゃないって。
CD買った時、裏返して出てきたアートワークと合わせて聴きたい曲。
O Alquimista
サビの歌詞が絵本のワンシーンみたいだなって思った。私が今回の四曲の流れに物語性を感じるのはこの曲による所が大きいのかも。
今回の再録で改めて感じたのが、小林さんが書く歌詞は時間軸がハッキリとしているというか。漢字で韻を踏んだり、淡々と冷たい言葉を歌い上げたりとか、「あなたと私は違う、でもそれが何だっていうの?」というテーマが根底にあったり等、やはりこの曲の後に繋がるTo (melt into)の収録曲を思い出す。
Cradle
トリビュートアルバム荒らしと名高いTHE NOVEMBERSでしたが、これまでのカバーとは趣向が異なる、割と原曲に沿ったアレンジ。原曲に忠実とは見せつつも、間奏でラルクの別の曲のフレーズを盛り込んだりと、ラルクへの深いリスペクトを垣間見せる一筋縄ではいかないカバー。
そして原曲よりも音数が絞られた結果、高松さんのベースがうねりまくっているのがよく聞こえるのが嬉しい。ドエルT’Aka~ma~Tsuの面目躍如。
ちなみにCradle以外の曲は今回フレットレス・アコースティックベースで録られたらしく、全編に渡って滑らかでメロディアスなベースラインが聴けるのも嬉しい。ある意味ベースが引っ張っているアルバムなのかも。
TODAY
近年の歌詞はどんどんムダな言葉が削ぎ落とされている感じがしていて。これまでも「笑顔が見たい」「いこうよ」といったシンプルな言葉を繰り返す曲はありましたがこの曲は振り切っていますね。
歌詞カードの特徴的な表記、徐々に歌いたい(私があなたにしてあげたい)事が自分で分かってきて、ぐちゃぐちゃで混乱していた頭の中がどんどん純化していく様を表しているように私には見えました。
伝えたいことは「笑顔が見たい 寝顔に触れたい」それに尽きるという。
小鳥のさえずりが聞こえてくる中でフェードアウトしていく終わり方が好き。ここからはけんそうが唄う現実世界ですよ。映画でいうスタッフロール。
2018/04/22 CROSSING CARNIVAL
ゴールデンウィークを目前に控えた4月の日曜日、CINRA主催のサーキットイベント、CROSSING CARNIVALへ。
開始時間をだいぶ過ぎてのんびりと向かうと、渋谷のラブホ街が既に一つ目のアクトを見たであろう人達の熱気で溢れかえっていた。長らくフェスに行っていなかったから忘れていた、あの群衆の興奮に煽られる感じ。今更ながらにワクワクしてきた。
私はGRAPEVINE→THE NOVEMBERS→world’s end girlfriendという流れで。どれも良かったのだけど、中でもダンサーとのコラボの親和性が凄まじかったGRAPEVINEを中心に書きたいと思います。
GRAPEVINE
- MISOGI
- 羽根
- FLY
- なしくずしの愛
- Sing
- KOL(キックアウト ラバー)
- Arma
(4~6でダンサー 康本雅子氏が参加)
今回のサーキット参加を決定付けたのがこのGRAPEVINE×康本雅子氏のコラボレーションでした。
音楽を聴いている時に脳裏に映像や色が浮かぶ事はよくあるのですが、私の中ではGRAPEVINEはライブを観ている時でさえそれが起こる唯一のバンドで。
だから今回のコラボレーションで、物語性の強いGRAPEVINEの曲と康本氏のダンスがどんな相乗効果を生むのかか楽しみで仕方無かったのですが、とんでもない物を観てしまった…。
FLY
あまりライブで聴いた記憶が無いから、前からやっていたか定かでは無いのですけれど、イントロのアレンジで滅茶苦茶ワクワクした。西川さんがアルペジオ弾いて、ベースがフェードインしてくる、原曲より浮遊感が増したアレンジ。雲を突き抜けるようなギターソロも相まって、本当に空に飛んでいけそう。
なしくずしの愛
なしくずしの愛が始まってすぐ、袖から凛とした姿勢でステージに歩み出る影が。この方が康本雅子さんだ、と視線が集まる。
「夜の旅の始まりだ」腕を大きく広げて静止する。これから始まる旅路への期待と不安を表すような。
最初は西川さん側から出て来て、演奏が進むと共にステージ前方を横切って、なしくずしの中盤からは金戸さんの横で踊っていた。
腕を振りかざし、見えない敵がステージにいるかのようにキックを繰り出したりと、全身が躍動する様が美しかった。ギターソロになるとその動きはどんどん激しさを増していき、ブレイクした瞬間に崩れ落ちる。ピアノの不穏な旋律が流れる中で、ドラムをじっと見据える目つきがあまりにも真っ直ぐで少し怖くなった。
Sing
なしくずしの愛が終わると康本氏が袖にハケておや?と思っていると、Singの演奏が始まり、サブステージの照明が点く。椅子がポツンと置いてあるそこへ康本氏がふらりと現れた。
それまで羽織っていたオレンジのパーカーを脱いで椅子にかけて、鳥のように両腕を伸ばす。旅を終えて、荷物をその辺に投げ捨てて羽根を伸ばしているみたいに。
しばらくクルクル回ったりと自由を謳歌した康本氏は椅子に座り、今度はキュウリを齧っては吐き出し、齧っては吐き。キュウリを食べきると本を取り出し、やはり苛立った素振りでページをめくり続けて最後には投げ捨てる。
それを見ている時、「やり場のない/この想いは」と歌う声が聴こえて、ハッとした。Singって、こんなに哀しい曲だったんだ。誰にも聞かれることのない悲鳴のような。
Singはアルバムぐるみで大好きで、もう何度も繰り返し聴いていた曲なのに、康本氏のパフォーマンスが加わってやっとこの曲にはやるせなさ、虚無感が込められていたんだって分かった。
本で顔を覆いながら、スライドギターのソロのリズムに合わせて手足を痙攣させる康本氏。私には向ける先を失った怒りとか悲しみに震えているように見えた。
KOL
少し感動的ですらあったSingからKOLへ。田中さんと、メインステージに戻ってきた康本氏が視線を合わせてニヤッと笑いあっているのが見えて、ああやってる本人達も良い感じなんだな、って分かった。
KOLの泥臭い感じと野性味溢れるダンスってまた良い食い合わせだなあ、と眺めていると、間奏でなんと康本氏が観客席に転がり込んできた。動揺する観客をかき分けて進み、ラスサビに到達する辺りには真ん中あたりのバーによじ登り、観客から奪った帽子を被って煽っていた。ホントにバインのライブか!?って疑うレベルの盛り上がりを演出するだけして、再びステージに転がり込んでいく。
普段じゃあり得ない光景に刺激されたのか、KOLのアウトロで金戸さんがグッと前に出てきてベースを弾く。たまにフロント三人が前に出てきてアピールするのを見るけどやっぱりアガるなあ。
最高潮の熱量に達した状態で演奏が終わり、田中さんも興奮した口調で「康本雅子さんでしたー!いやー凄かった!良かった!」と拍手。
Arma
康本氏が退場して、最後はArma。メンバー全員が晴れやかな顔付きで演奏していたのがすごい印象に残っている。なんなら前回のツアーファイナルで聴いた時よりも清々しいArma。
この曲ってアルバムでもライブでも、最初か最後に置かれて真価を発揮される気が。始まりのファンファレーであり、これからも宜しくっていう暫しの別れの挨拶でもあり。
本当に良いライブでした。最初の3曲からギア全開だった演奏が、ダンスに煽られてリミッター解除されたようだった。現場でしか絶対に味わえない事件。
THE NOVEMBERS
(5~7で志磨遼平参加)
鉄の夢
「ほんの少しの足の踏み場も無いな」でブレイクを作るアレンジ!ノベンバはこういう一瞬の空白を作るアレンジが堪らない。
鉄の夢が終わってから、Wireが始まるまでの一瞬の静寂が懐かしかった。私がノベンバを観に行き始めた頃にあった、ステージから放たれる覇気に圧倒され過ぎて拍手すら憚れる空気。それくらい、この日の鉄の夢は殺気に満ち溢れていた。
BE MY BABY(COMPLEX Cover)
じゃあゲストを呼びますね、と言うや否や突如流れ出す『BE MY BABY!BE MY BABY!』のコーラスに場内がどよめいていると、ノベンバのゲスト、志磨遼平が登場。
実は志磨遼平という人をこの日初めて観たのですが、昔ながらのロックスターという感じの雰囲気に視線が釘付けだった。現実から一つ浮いている、ステージの住人。
というかBE MY BABYが流れ出した時にまさかのペレ草田さん登場か!?と思ったのは私だけでしょうか。
Gilmore guilt more
アカペラから入って、テンポを落とした8ビートのドラムが入ってくる重いアレンジ。さながら重戦車のような。
この曲はライブで聴く度にアレンジが変わって、毎回いつ小林さんの叫びがくるのかドキドキする。
そして中盤、ベースリフが続く所でおもむろに志磨遼平が最前線の客に近づき、肩車させて客席を練り歩く。そして最後、バンドの演奏が爆発する直前、ステージに戻ると見せかけてまさかのダイブ。
個人的に私、ダイバーが続出するようなライブに行った事が無いので、まさかのノベンバでダイブ受け止め童貞を卒業しました。なんてこと。。笑
world’s end girlfiend
音源ではよく聴いていたのですが、生で聴く機会に恵まれなかったので今回やっと見れて良かったです。
生で聴くと剛柔自在なドラムが本当に凄まじかった。腕の動きはしなやかなのに一音一音が本当に重く、そしてメリハリのついたドラム。めちゃくちゃヘビーなのに聴きやすいっていう。
そして次々と音色を変えて曲想を膨らませる二本のギター。素晴らしかった。
大森靖子
wegのゲストで出てきて、その後も何曲か。
私は初めて曲も聴いたし、正直家に帰ってから聴き直すことは無いんだろうなあ、って思いながら観ていましたがああこの人は本当に素直過ぎる人なんだろうなあ。と感じました。少し私の中にあった色眼鏡が外れました。
タイトルにもなっている「クロス」っていうテーマが根底にあってとても良いイベントでした。
ライブの現場ではいつ事件が起こるか分からない、そのワクワク感を存分に感じられて楽しかったです。
3月
咲き始めた桜から目を背ける様に暗い曲ばかり聴いてた3月。春は別れの季節、なのは今年くらいだと良いな。
Chance/D.A.N.
D.A.N. - Chance (Official Video)
最近のライブで演奏していた新曲。音源で聴くとメロディーの心地良さが際立っていて。D.A.N.は一曲毎に踊れる方メロウな方とそれぞれのベクトルに振り切っている印象があったけど、この曲はちょうどその真ん中を行っている感じが好きです。
PVも夜中にボーッと眺めるのに合ってて、やっぱり深夜が似合うバンドなんだなあと。途中車に追いかけられるの、あのPVのオマージュなんですかね。って書こうとしたらもうコメントにありましたね。
Imago/Gyða Valtýsdóttir(曲は動画の12:35辺りから)
Gyða Valtýsdóttir - Full Performance (Live on KEXP)
múmの出戻りボーカル、ギーザのソロプロジェクト。リバーブのかかったチェロとパーカッション、そして見た目に不釣り合いな程幼い歌声で描かれるモノクロームの世界。
幽玄なチェロの音色は言うまでもなく素晴らしいけど、ドラムが途中から金具をセットの上に置いた状態で叩いたり、スティックでシンバルを擦って効果音を出したりと面白い。生活音を積極的に取り入れていたmúmという出自を伺わせる一幕。
全体的にホラー映画の序盤、まだ平和な街並みのシーンで流れてそうな曲たち。本当に北の国に生きる人達の書く曲は映像的ですね。
Wikiに載ってたから書いてるけど本当にギーザなんでしょうか読み方。そして苗字に当たる部分の発音は何なんでしょう。アイスランド語はいつまでも読めない。
16 Psyche/Chelsea Wolfe
Chelsea Wolfe - "16 Psyche" (Official Audio)
Portisheadがヤケを起こしてハードコア始めちゃった、みたいな。私が無条件に好きになる「女性Vo × 歪みきった弦楽隊× 太い生ドラム」公式にドンズバハマった女性SSW。もうこういうのは大好物なんです。
それにしてもドラムの音素晴らしいですね。イヤホンで聴くとバスドラの空気を震わせる感覚がバシッと伝わってきます。とインタビュー読んでいたら、どうもそういう音作りを求めてプロデューサーも決めたみたい。
NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CHELSEA WOLFE : HISS SPUN】 | Marunouchi Muzik Magazine
というかこのインタビュー読んだら参加メンツが濃厚すぎて…。
歪んだベースと暗い女性ボーカルの相性ってどうしてこんなにも良いんでしょうか。どうやっても男性には出せない情念、怨念めいた物が女性には出せるんでしょうね。アルバムからもう一曲、静と歪みのコントラストが最高なTwin Fawnもどうぞ。
Chelsea Wolfe "Twin Fawn" (Official Audio)
最後に一曲、今月たくさん聴いた訳じゃないけど。